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Pick Up Vol. 9

下水道を支える仕事の未来

管清工業株式会社

みなさんはトイレやキッチンに流される汚れた水がどこへ行くか考えたことはありますか?汚水は建物の排水管を通り、下水道管へ流れていき、きれいに処理された後、海や川へと流れていきます。こうした汚水処理の仕組みに欠かせない排水管や下水道管の清掃や点検、補修などのメンテナンスを行う管清工業株式会社の長谷川健司社長にお話をお聞きしました。(聞き手:NPO法人日本トイレ研究所代表理事・加藤篤)

(左から)日本トイレ研究所・加藤、管清工業・長谷川健司社長

ロボットにより管路の劣化状況をすばやく把握

――管清工業の主な仕事内容を教えてください

長谷川社長: 当社は、1962年に下水道管路清掃機材の商社から独立して生まれた会社です。下水道管路施設、建築の排水設備、鉄道の排水溝清掃などの点検・調査・清掃・補修の専門会社としてスタートしました。その後、下水道管の中を専門的に清掃する高圧洗浄車、管路内の状況を把握するテレビカメラ、さらには下水道管路内を補修する技術などを時代とともに導入しながら、発展してきました。
2000年代には、下水道管路内の水量にかかわらず調査可能な自走式ロボットや清掃ロボットを開発しました。下水道というのは広範囲にわたって張り巡らされているので、管路の劣化状況をすばやく把握したり、清掃したりすることが非常に重要になります。管内での作業は重労働であり、有毒ガスや管内の急激な水位上昇等多くの危険を伴うため、このような技術革新が常に求められています。

グランド・スウィーパー:地上で映像を確認しながら堆積物を粉砕・吸引作業を効率的に行う清掃ロボット

トイレはつくって終わりではなく維持管理が大事

――管清工業では、国内の下水道管路管理業務だけでなく、東ティモールの技術者育成を行っていますが、きっかけは何ですか?

長谷川社長: 東ティモールは2002年の独立から20年が経ち、当時は野外排泄や素掘りトイレだったところに、少しずつ改善されたトイレがつくられていきました。ですが、トイレが増えるにつれて、今度は便器につながる配管がつまるなどのトラブルが発生します。適切に維持管理をしないと、せっかくのトイレも機能しなくなってしまいます。つまり、トイレの維持管理が国の課題となっていたのです。

そこで、東ティモールの駐日大使館から依頼を受け、技術者を育成する取組みを始めることにしました。実際に東ティモールの大統領にお会いした際に「将来を見据えこの国で会社の設立は計画されていますか?」と聞かれました。この意図としては、国民自身が技術を身に着け、自ら維持管理できる仕組みが求められているのだと理解しました。
今後は公共事業として下水道等の整備がはじまるので、そこも含めて維持管理業が必要になります。

当社にはこれまで築いてきた下水道の維持管理ノウハウや技術があります。技術に関しては下水道管路内を調査するロボットもあります。東ティモールは発展の速度が速いので、こういった技術がすぐに必要になります。人づくりを支援することで、東ティモールの国づくりを衛生面からサポートでき、将来的にはビジネスにもつながると考えています。

東ティモールでの研修の様子

出前授業を通じて、子どもや市民の気持ちに共感する

――ロボットの積極的導入や東ティモールの技術者育成など、新しいことにチャレンジし続けているように感じますが、他にも力を入れていることはありますか?

長谷川社長: ここでぜひ紹介したいのは、出前授業です。当社では、普段目にすることのない「下水道」の重要性を知ってもらうと同時に、市民の下水道に対するイメージ、知識や要望を知りたいという思いから、2007年に「管路管理総合研究所」を設立し、下水道の啓発活動を始めました。その活動の柱の一つが出前授業です。北海道から沖縄まで全国に出向き、これまで小学校を中心にのべ9万3千人(2024年9月末現在)のみなさんに出前授業を行いました。

この出前授業は全て自社の社員で実施しています。社員が市民目線で様々な思いを感じとり、子どもたちに直に触れあうことで、やりがいを感じることが重要だと考えています。おかげさまでこの出前授業の活動は、国土交通大臣賞や文部科学大臣賞を受賞しました。社会から認めてもらうことで、より多くの人に届けたいというモチベーションも高まります。下水道のメンテナンスという仕事は、市民から意識されづらいのですが、衛生的な暮らしのインフラを支える大切な仕事です。

小学校での出前授業の様子

平時の技術が災害時調査にも活かせる

――2024年1月の能登半島地震では、下水道も大きな被害を受けました。どのような対応をされましたか?

長谷川社長: 1月2日から私が会長を務める公益社団法人日本下水道管路管理業協会(以下、管路協)を通じて、全国からロボットを含めた機材を調達し同業者と連携しながら、下水道の被災調査を実施しました。基本的に平時の調査と方法が同じであることから、日頃から活用している機材等が大変役に立ちました。
当社より被災地に支援に行く社員は、当然ながら日頃は平時の業務に携わっていますので、人手が足りなくなります。そこで、当社をはじめとする管路協傘下の事業者は自治体への工期延長の申請をし、被災地支援にあたりました。
過去の東日本大震災や熊本地震などの災害で、支援の経験がある社員は、率先して支援を申し出てくれました。それに触発される形で他の社員も支援に手を挙げ、1~2週間のローテーションで支援にあたりました。

今回の現場から感じたことは、過疎化・高齢化・インフラの老朽化が進む地域での被災は、復旧・復興に多大な時間を要するということです。このような状況において作業スピードを上げるには、復興ビジョンや復興計画を明確にすることが求められます。仕事も復興もスピードが大事で、対応が遅れることは不安につながります。

変化を恐れるのではなく、大胆に変わる勇気が必要

――成熟している日本が歩みを止めず走り続けるために、管清工業は何を目指していますか?

長谷川社長: 尖った企業を目指しています。そのためには、異端児と呼ばれることを潔く受け入れる事だと思います。世界的な競争に勝つためには、抜きんでた存在が不可欠であると考えます。独創的な人材を育てたり、学んだりすることができる企業や組織がなければ、日本は世界的な競争に勝てないと思っています。

日本は経験値が豊富で下水道の維持管理に関して新しい機械を導入していますが、そこに胡坐をかくのではなく、止まることなく探究することが必要です。現場で起こる様々な問題を想定外とせず、今持っている知見と機械で何ができるのかを提案して、何が何でも対応することが管路管理に求められていることですし、それを使命だと考えています。社会のニーズにあわせて変化し続けなければなりません。変化には決断と勇気が必要ですが、変化を恐れないことが「尖る」ことにつながるはずです。

――これからの社会人に大切にしてほしいことは何でしょうか?

長谷川社長: 時代は変わっています。東ティモールから学びに来た女性もとても熱心に学んでいます。汚水処理をネガティブな仕事として捉えていません。技術の一つとして学び、それを普及することに重きを置いているのです。建国20年の新しい国なので、自分の国を良くしたいという気持ちが強く、きれいな仕事・汚い仕事という価値観ではなく、まずはやってみようという意思を感じます。日本はこのような感覚を忘れているのではないでしょうか。性別や年齢、国籍を超えて、やりたい人が率先して活動できる環境をつくることが必要です。
当社では、若い人がやりたいことに挑戦できるように、経営層が責任を持って後押しする環境づくりに努めています。決まり切った会議ではなく、日頃のコミュニケーションが必要で、それは経営層や中間管理者層が積極的に声をかけ、現場に関心を持つこと、現場に教えてもらうこと、その積み重ねが現場との距離を縮め相互理解が進むと考えています。
誰かが責任を持ってくれれば、思い切って行動に移すことができます。失敗を恐れて、消極的になってしまうことはよくありません。とくに若い人には、失敗を恐れず思いきり目の前の課題に挑戦して欲しいと思います。

――ありがとうございました。