良い排便習慣は生活を整えることから
太陽化学株式会社おしりやうんちの悩みは相談しづらく、1人で悩んでしまう方も少なくありません。大腸肛門の病気で悩む人に寄り添う藤森正彦先生(呉市医師会病院 大腸肛門病センター長、大腸・肛門外科主任部長)と、太陽化学株式会社の山崎長宣さん(取締役 経営企画室長 兼 メディケア事業部長)にお聞きしました。(聞き手:NPO法人日本トイレ研究所代表理事・加藤篤)
おしりとおなかの悩みの専門病院として
――大腸肛門病センターを開設されて今年で10年とお聞きしました。センター立ち上げにはどんな思いがあったのでしょうか?
藤森先生: 痔などの肛門疾患の原因には、便秘などの排便障害があるケースが多いのですが、従来は肛門の病気だけを手術などで治療するというケースが多くありました。しかしそれでは原因となる排便障害が改善されていないので、肛門の病気を繰り返してしまいがちです。一方、排便障害を改善すると、自然と肛門も良くなることも多いのです。大腸肛門の病気に対して、より専門的で質の高い医療を提供するため、2014年に広島県で初めてとなる大腸肛門病センターを開設しました。
現在は、主に大腸がんの診断・治療、三大痔疾患(痔核、裂肛、痔瘻)の手術、排便障害(便秘、直腸脱・直腸瘤など)の診断・治療、ストーマ外来などを行っています。おしりの悩み相談や市民への公開セミナーなども行い、おしりやうんちの悩みを気軽に相談していただける病院を目指しています。
――藤森先生が診療のなかで感じている課題は何でしょう?
藤森先生: ほとんどの人は排泄がどんなものかを習っていないので、間違った排泄習慣を身につけてしまうということです。便秘ではないのに便秘だと思い込んだり、便秘なのにそうではないと思い込んでいたりする人もいます。まず、良い排泄はどんなものかというゴールを皆さんにお伝えすることが大切だと感じています。
―― どうして便秘ではないのに便秘と思いこんでしまうのでしょうか?
藤森先生: 毎朝、便が出るのが正しいと思い込んでしまうという人がいます。例えば通勤前に、便意を感じていないにもかかわらず無理にいきんで排便しようとする場合などです。体の準備ができていないので当然出にくいのですが、それを便秘と思ってしまうのです。若い頃からそうしたことを繰り返し、誤った排泄習慣を身につけることで、年を重ねてから便秘が悪化し、肛門に問題が出てくるのではないかと感じています。
高齢になると、食事量や運動量の減少などで便秘になりやすいことは事実ですが、これに加えて「若い頃は毎日出ていたのに、週5日しか出ないから便秘だ」といった思い込みをしてしまう人もいます。
――便意がないのに無理にいきんで出そうとすると、どんなことが起こりますか?
藤森先生: 正常な排便は、おなかに力が入ると同時に、骨盤底筋群(肛門の周りの筋肉)が緩んで、便を体の外に出します。しかし無理にいきむことを続けていると、排便時に十分に骨盤底筋群が緩まなかったり、反対に力を入れて肛門を締めるような動きをするようになり「排便協調運動障害」が起こる可能性があります。
また、痔や直腸脱、女性の場合は骨盤臓器脱になるリスクもあります。
良い排便のための「うんち『3』のルール」
――良い排便について藤森先生は、どのように伝えていますか?
藤森先生: 良い排便について皆さんにわかりやすく伝えるために「3のルール」を皆さんに伝えています。
1つ目は、「排便回数は1日3回~1週間に3回でオッケー」です。年齢、性別、食べる量、運動量などはそれぞれちがうので、排便リズムも一人ひとり異なります。
2つ目は「いきむ時間は3秒くらい」です。軽くいきむ程度で排便するためには、便が硬くならないように、日頃から食事や生活習慣を整えたりすることも大切です。
3つ目は「1回の排便は3分以内」です。スッキリ感がないからといって、トイレに30分も座っているという人がいますが、長時間トイレに座っているとお尻に圧力がかかって血流が悪くなり、痔の原因にもなります。
大腸肛門病センターでは「排便ケアチームPOOP」で、医師、看護師、管理栄養士などが連携して、治療にあたっています。スタッフがマスコットキャラクター「ぷぷちゃん」を作り、マンガで「3のルール」を解説するなど、伝え方についても工夫しています。
水溶性食物繊維が産生する「短鎖脂肪酸」が腸内環境を整える
――いきむ時間を少なくして良い排便をするためには、便が硬くならないようにすることも大切ですね。太陽化学さんの「グアー豆食物繊維」は、病院でもよく使用されているとお聞きしますが、どんなものですか?
山崎さん(太陽化学): 「グアー豆食物繊維」は、インドで古くからカレーの具材などとして食べられてきた野菜であるグアー豆を酵素分解して作った水溶性食物繊維です。元々はアイスクリームを固める材料などに使われていましたが、研究の結果、便秘だけでなく、やや軟らかめの便も改善したり、血糖値の上昇を抑制したりするなど、様々な効果があることが分かってきました。
水溶性食物繊維は大腸の有用菌のエサになり、「短鎖脂肪酸」を産生します。グアー豆食物繊維は、水溶性食物繊維のなかでも、有用菌のエサになりやすく、「短鎖脂肪酸」を効率的に作り出すことがわかっています。この短鎖脂肪酸は腸内環境を整える働きがあるため、便秘気味の硬い便にも、軟らかめの便も改善します。
昨年、日本消化管学会から刊行された「便通異常症診療ガイドライン2023」には、グアー豆食物繊維は、慢性便秘症に対して排便回数を優位に増加させると共に、便秘薬の使用量を優位に減少させることが示されています。
お茶やジュースなどお好みの飲み物や、みそ汁などの料理に混ぜて飲むことができ、溶けやすく、味を変えないので普段の食生活にとりいれていただきやすいと思います。
日本人は食物繊維が不足
――藤森先生は、食物繊維などの食習慣について、患者さんにどのように指導されていますか?
藤森先生: 日本人の食物繊維摂取量は一般的に不足しています。高齢世帯でも最近は宅配やコンビニのお弁当などを利用されることも多く、食物繊維が不足しがちです。
食事だけで必要な食物繊維を摂ることは難しいと思いますので、グアー豆食物繊維は、便が硬くなるタイプの便秘の場合などに試していただいています。例えば1か月試してみて、次回の外来受診の際に評価を行うようにしています。
もちろん、これだけで便が出るようになるわけではありません。腸内で便を押し出すためには便のかさを増やすことも必要なので、不溶性の食物繊維も適度に摂ることが必要です。日常の食事では、例えばグラノーラやバナナは手軽に食物繊維の摂取量を増やすことができます。3食しっかり食事を摂った上で、足りない分は補助的にサプリメントで補うのが良いと思います。
――良い排便につながる生活習慣はどんなことですか?
藤森先生: 排便は自律神経が担っており、副交感神経が優位になると、排便が促されやすくなります。副交感神経を優位にするために、リラックスできる時間を作るようにしていただきたいです。お風呂につかったり、おへその周りや首の後ろなどを寝る前に温めるのもいいと思います。
運動も良いですが、あまり激しく行うと交感神経が活発になるので、軽い運動で結構です。ストレッチをする程度でも構いません。
排便時の姿勢は、かかとを上げて前かがみになる「ロダンの考える人」が、便が出やすくなる姿勢です。
また、便意を感じてからトイレに行くことも大切です。よく「何をすればいいですか」と聞かれますが、何かひとつではなく、生活全体を整えていくことが必要です。
腸内環境・排便について、子どものうちから教育を
――腸内環境を整えることも大切ですよね?
藤森先生: 腸内環境は人それぞれなので、色々と試してみて、自分に合う方法を見つけることが大切です。一般的に便通にいいと言われているヨーグルトや納豆も、過敏性腸症候群(IBS)などの場合は合わないということもあります。いわゆる腸活にいいといわれる食品のなかには、IBSの人には逆効果になる食品もあります。
山崎さん: IBSの人にも、グアー豆食物繊維は選択肢のひとつにしていただけると思います。グアー豆食物繊維はオーストラリアに本部を置くモナッシュ大学が運営するLowFODMAP(ローフォドマップ)認証を取得していて、IBSの人が摂取しても腹痛やおなかのハリなどの症状が出にくいと考えられています。
LowFODMAP認証とは、急速に発酵しおなかに刺激を与えやすい糖類(FODMAP)を含まないことが証明された食品に与えられる世界的な認証であり、グアー豆食物繊維は食物繊維で登録されている数少ない素材となります。おなかの不調を招かない食事スタイルの選択基準として、欧米では広く認知されています。
脳腸相関といいますが、腸内環境はストレスやメンタルヘルスとも関連していると聞きます。腸内環境が乱れると全身によくない影響が出る原因(免疫力低下、お肌の乾燥、イライラの原因など)にもなります。ぜひ自分に合った食事や生活習慣を見つけて、日常的に腸内環境を整える生活を送っていただきたいです。
藤森先生: 便秘は心筋梗塞や慢性腎臓病、深部静脈血栓症などさまざまな病気との関連が指摘されています。ぜひ子どもの頃から腸内環境や排便についての教育をしていただきたいです。子どもの頃に身につけた習慣は、大人になっても継続し、あとから変えるのは難しいからです。
便秘治療を行う上で、薬による治療も必要ですが、食事や生活習慣を整えることが基本です。高血圧や糖尿病などの慢性疾患も、薬でコントロールしながら生活習慣にも気をつけることが必要です。同じように、便秘の場合も、何かをしたからすぐに良くなるというわけではなく、日々の生活を腸内の環境を整えることが大切です。
――本日はありがとうございました。